2013年度は、国際キャンペーンとして10年取り組んできた武器貿易条約(ATT)が、国連総会において圧倒的多数の支持で採択されるなど、長年の活動が実った年でした。その他、女性の性と生殖の権利を守るキャンペーン(My Body, My Rights)や、シリアやエジプトで起こった人権侵害に対し、当局へ即時に暴力を止めるよう求めるなど、危機対応のアクションを行いました。また、全国講演会「スピーキング・ツアー2013」を実施。アフガニスタンとパキスタンから女性の活動家を招へいし、より多くの人に両国の女性が直面する差別や暴力の実情を伝えました。
国際キャンペーン(海外の活動)
武器貿易条約(ATT)キャンペーン
4月、国連総会において武器貿易条約(ATT)が圧倒的多数の支持で採択された。2003年に始まった「コントロール・アームズ」キャンペーンから実に10年目の達成である。ATTは、戦争犯罪など国際法上もっとも重大な人権侵害が起こる可能性がある場合に通常兵器の移転を禁止している。2013 年はとりわけ、武器輸出大国の米国をターゲットにオンラインやツイッターのアクションを実施し、日本支部も積極的に参加した。また、日本政府に対して、より強力な条約内容を維持するために妥協しないよう働きかけた。
女性の性と生殖の権利を守る:My Body, My Rightsキャンペーン
女性の性と生殖の権利の保護を求めるアクションを、オフラインとオンラインで実施。アースデイ(4月)、アフリカンフェスタ(5月)、千代田区男女共同参画(MIW)祭り(6月)等のブース出展や講演会、またウェブサイト等を活用し、合計1,627筆の署名を集めた。また、個人のケースとして、エルサルバドルのベアトリスさんのケースを取り上げ、署名活動を展開。妊娠していたベアトリスさんは、腎臓疾患などの重い持病が悪化、妊娠状態が続けば命は助からない状況だったが、エルサルバドルでは妊娠中絶を全面的に禁止しているため、救命医療が受けらなかった。アムネスティやほかのNGOの取り組みにより、政府はついに救命措置を認め、彼女は一命を取り留めた。 また、横浜で開催された第5回アフリカ開発会議では、他のNGO とともに、性と生殖の権利を含む政策提言を日本政府に提出した。
2013年に展開した主なアクション
- シリア:内戦に伴う難民・国内避難民への各国の支援を要請する
- ATT:米国に対してATT を支持するよう求める
- イスラエル:良心的兵役拒否者の釈放を求める
- 日本:袴田巌さんの再審を求める
- トルコ:デモ参加者に対する当局の過剰な武力行使を批判し責任を問う
- エジプト:女性活動家の保護を求める
- 日本:名張毒ブドウ酒事件・奥西勝さんの再審を求める
- リビア: 虐待される移民・難民の保護を求める
- アフガニスタン:女性活動家の身の安全を求める
- 北朝鮮:国連調査委員会の設立を求める/政治囚収容所の閉鎖を求める
- ロシア:ソチ五輪の陰で悪化する人権政策の改善を求める
イベント
ライティングマラソン
暴力をもちいていないのに、自らの信念や人種、宗教、肌の色などを理由に囚われの身となった人びとの自由を求め、世界中の仲間とともに手紙を書く、アムネスティ恒例のイベント「ライティングマラソン」。今年も、全国26カ所でグループによる手紙書きが行われた。街頭で、公共施設で、イベント会場で、そして自宅でも、各地域工夫を凝らし、2,700以上のアピールハガキを送った。東京事務所では、12月10日に「トークイベント:人権のいま~新たな段階へ向かうCSR ~」を実施し、企業のCSR 担当者を中心に50人ほどの参加者が集まった。
全国スピーキング・ツアー
10月26日から11月6日にかけて、全国スピーキング・ツアー「命を懸けて求める自由~差別と暴力に立ち向かう南アジアの女性たち~」を開催した。アフガニスタンとパキスタンの活動家2人を招へいし、全国7カ所で講演を行った。講演には合わせて412名の方にお越しいただき、各地で2人を取り上げたメディアを通して、より多くの人に両国の女性が直面する差別や暴力の実情を伝えることができた。
シンポジウム「使い捨てられるアフリカ~資源開発とコンゴ危機~」
コンゴ民主共和国における中国企業の進出と人権侵害についての報告書が出たことを機に、9月29日に都内でシンポジウムを開催。同国の紛争下における人権侵害、資源、進出企業と国際的な枠組みという視点で議論し、当日は100名以上の参加があった。
国内法制度への取り組み(国内の活動)
取調べの全過程の録音・録画(可視化)の早期法制化を求め、法務大臣と法制審議会への働きかけを引き続き行った。
6月、記者会見を行い、法制審議会が1月に発表した案の問題点を明らかにした。
10月、院内集会「これが"新時代" の取調べの可視化? ~ガラパゴス化する日本の刑事司法~」を開催、120名以上が参加した。
また、6月と10月に、法務大臣および法制審議会に要請文を提出した。
5月、拷問等禁止委員会において日本政府報告書の審査が実施され、それに先立ちアムネスティは、代用監獄、違法な取調べ、死刑、難民認定および入管制度、「慰安婦」問題、国内人権機関などについての勧告を含むレポートを同委員会に提出した。
6月、政府が「慰安婦」問題に関する同委員会の勧告について「従う義務なし」という答弁書を決定したことを受け、急遽、集会「国連勧告"従う義務なし" に異議あり!」を7月1日に開催し、国際人権基準を尊重しない日本政府の姿勢を追及した。集会には150 名近い参加者があった。
1月、朝鮮学校無償化排除の問題に対する日本支部声明を発表し、国連人権諸機関の勧告に沿って無償化の対象とするよう求めた。
10月から12月、特定秘密保護法案について、国際人権基準からの問題点を指摘し、見直しを求める声明を3度にわたって発表し、緊急のツイッター・アクションを実施した。
死刑廃止
4月11日、統計報告書「2012年の死刑判決と死刑執行」の記者説明会を参議院会館で開催し、東アジア部のロザーン・ライフ部長が報告を行った。
2013年は、安倍政権に代わり、谷垣法務大臣の下で、2月3名、4月2名、9月1名、12月2名の死刑執行があり、抗議声明を出すとともに、記者会見および法務省前等での抗議行動を行った。また3月15日、外国特派員協会にて、海外メディアを対象に、日本の死刑制度が抱える問題や、執行停止を訴えて、フォーラム90の安田弁護士とともに、記者会見を実施した。
「危機にある個人」の袴田事件:袴田さんと名張毒ぶどう酒事件:奥西さんのケースについて、計3回の署名集めを行った。その際、オランダ、英国、ニュージーランド、香港をはじめとする支部からの協力も得た。3月に香港地域事務所で国際事務局職員、日本支部職員、死刑廃止ネットワーク大阪のコーディネーターで、死刑廃止戦略の検討を行い、死刑廃止に向けた5カ年計画を策定した。この計画は来年以降、本格的に推進する予定である。
難民
法務省・日本弁護士会・そしてアムネスティ日本も加わるなんみんフォーラム(FRJ)で、難民の収容回避を目指す収容の代替措置のモデルを確立するため、パイロットプロ ジェクトを継続して行った。また、リビア難民、およびシリア難民の保護を求めるオンライン・アクションを実施した。加えて、法務省入国管理局収容施設への取り組みを強化した。具体的には、被収容者面会、他団体との情報交換、施設との交渉の対象を、東日本入国管理センターから東京入国管理局まで広げた。
その他
2013世界大会と原発問題への取り組み
日本支部として、世界大会(ICM)において「原子力発電所事故による人権侵害」と題し、過去の原発事故に関する試験的調査を求める決議案を提出した。しかし議案に対してさまざまな声があることを踏まえ、国際事務局といくつかの支部と協議して修正案を提出し、最終的にコンセンサスで採択された。
その修正案は、原発事故のみならず、自然、環境、産業など広範な災害に対応するためのガイドラインを2014年1月末までに国際事務局から運動体に提供するものである。
また、ICM への提出議案と直接的に関係するものではな いが、日本政府部内に横断的に人権を担当する専門部署を設置し事故対応にあたることを求めたアクションを行い、署名を安倍総理宛に送付した。