日本に住む外国籍の人は、日本にいる資格(在留資格)を取得して、暮らしています。この資格を審査し、可否を判断しているのが、出入国在留管理庁(入管庁)です。入管庁はまた、オーバーステイ(在留許可期限を越えて滞在)などの理由で、在留資格がない非正規滞在の人たちを、行政権限で全国9カ所以上の施設で収容しています。
収容は人身の自由を奪う行為ですから、刑事手続きであれば裁判所の令状が必要ですが、入管の手続きでは不要とされています。いわば、警察官、検察官、裁判官、刑務官の役割を、入管という行政職員が行っているのです。チェック機能が働かない上に、入管職員に大きな裁量が与えられてしまっているのです。
長期化する収容
かつては非正規滞在の人たちの正規化を図る、という方法で非正規の人たちをなくしていく入管政策がとられた時期もありました。
しかし今、入管政策が厳格化され、日本社会から排除するという方向になっています。そのために収容が長期化しています。仮放免(一時的に収容を停止して釈放する措置)の申請があっても許可しない、帰らない限り、ずっと拘束する、というわけです。
長期収容されている人たちの中には、人生のほとんどを家族と一緒に日本で暮らしている人や、自国に戻ると迫害のおそれや命の危険がある難民認定申請者など、帰国できない理由がある人たちが多いと言われています。
長期収容は、身体の自由を奪う扱いであるだけでなく、いつ釈放されるのか分からない収容者に多大な不安を与えるものであり、心身に過度のストレスを生じさせます。このような扱いに耐えかねた収容者が抗議のためハンガーストライキを決行するケースが急増し、2019年6月には長崎の収容施設で餓死者が出る事態に至りました。2021年3月には、名古屋入管に収容されていたスリランカ国籍のウィシュマさんが、体調不良を訴えていたにもかかわらず、適切な治療が受けることができずに死亡する事件も起きています。
日本の入国管理及び難民認定法には「送還可能なときまで」収容することができるとしか規定されておらず、収容期間について明確な上限は設定されていません。そのため、入管庁は無期限に外国人を収容することができてしまうのです。
国際人権法では、すべての人の身体の自由が保障されています。送還を目的とした収容は、本来ならば移送のための飛行機や船を待つ時間といった、送還手続きをすぐに実行するために必要な数時間に限られるべきなのです。にもかかわらず、収容期間について明確な上限を設定していない日本の長期収容に関する実態は、国連人種差別撤廃委員会などからも問題だと指摘されています。
問題だらけの出入国管理及び難民認定法(入管法)
2021年の通常国会において、退去強制令に応じない非正規滞在の外国人が、結果的に入管施設に長期間収容されていることを問題視した日本政府により、「出入国管理及び難民認定法及び日本国との平和条約に基づき日本の国籍を離脱した者等の出入国管理に関する特例法の一部を改正する法律案」(以下、改正法案)が審議されました。しかし、本国で命の危険にさらされるおそれのある人たちの強制送還が可能になるなど、問題が多い改正法案であったため、国内外から多くの反対の声が上がり、結局、法案は取り下げられました。
にもかかわらず日本政府は、この一度は廃案になった入管法改定案とほぼ同じ内容の法案を2023年の通常国会に再提出し、6月9日、改正法案は国会で可決成立しました。
<入管法の問題点>
- 命や自由が脅かされかねない国への追放や送還を禁止する国際習慣法「ノンルフールマン原則」に反し、深刻な人権侵害を受けるおそれのある国への難民の強制送還が可能になる
- 難民申請中など、在留資格を持たない人に送還を強制し、従わないと刑事罰を与える命令制度の新設
- 収容に関する決定に司法審査が導入されず、行政機関である入管庁の裁量が大きいまま
- 収容期限の上限が定められず、無期限収容が可能なまま
- 収容に代わる措置として導入される「監理措置制度」は対象者の自由が保障されておらず、また、あいまいな要件での再収容を行政判断で可能としている
外国人排除ではなく基本的人権の尊重を
日本の出入国管理及び難民認定法の改正は、国籍や在留資格に関係なく、すべての人の基本的人権を平等に尊重し、国際人権基準に則って行われるべきです。
日本の入管収容および難民認定制度は、国連の人権条約機関から再三にわたる勧告を受けてきました。最近では2020年8月に、日本においては難民認定申請者に対して差別的な対応をとることが常態化している、また、入管収容は恣意的拘禁にあたり国際法違反である、という厳しい指摘を国連人権理事会の恣意的拘禁作業部会が行い、「出入国管理及び難民認定法」(入管法)を国際人権基準に則って見直すよう日本政府に求めています。また、2021年と2023年にも、国連特別手続の専門家らが日本政府に書簡を送り、改正法案の国際人権法違反を徹底的に見直すよう求めています。