ビジネスと人権

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目次

拡大する企業の影響力

グローバリゼーションによる経済成長を経て、企業は社会に対してかつてないほどの影響力を持っています。企業が雇用を生み出し、人びとの生活をよりよくしていくといったよい影響を与える反面、利益や効率を求めすぎるあまり、企業活動が人権に悪影響をおよぼし、労働者や地域に住む住民などの権利が侵害され、国の腐敗に加担してしまうといったことも起きています。アムネスティ・インターナショナルでは、企業が説明責任を果たし、人権状況を是正していくために、企業が関わる人権の問題について、企業に対して声をあげて変化を求める活動を行っています。

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世界児童労働反対デーにモントリオールのアップルストア前で行ったアクション。アップル社に対し、コバルトのサプライチェーンに児童労働がないかどうかをチェックし、そのためにどのようなステップを踏んでいるか、また児童労働を発見した場合にどのように対処しているかを開示するよう要求した。

企業の事業活動によって影響を受ける人たち

コバルト鉱石を選別する子どもたち (コンゴ民主共和国)原料生産に関わる労働者
わたしたちの生活を支えるパソコンや携帯電話などのIT機器や食品・日用品の原材料を生産する鉱山や農園で、健康をおびやかすほど過酷な労働環境で働く人たちがいます。児童労働の問題も起きています。
写真:コンゴ民主共和国でコバルト鉱石を選別する子どもたち(2015年5月)

カタールの労働キャンプ移住労働者
よりよい生活を求めて自国より給与の高い国外で働く移住労働者が増えています。仕事をあっせんしてもらうため、労働者が借金をして高額な紹介料や手数料を支払っていることも多く、債務労働となっています。また、給与の未払いや遅延、雇用主からの暴力、転職の自由がないことなども問題となっています。
写真:カタールの労働キャンプ。2022年W杯開催に伴うスタジアムやインフラの建設で、移住労働者の給料未払いや劣悪な住環境が問題に。

ブラジルのアマゾンで、違法な牛の放牧により、先住民の土地が奪われている先住民の人びと
資源開発のため、先住民の人びとが生活の糧を得たり儀式を行ったりするために伝統的に守ってきた土地が収奪され、生活が破壊されています。また、森林や河川が開発されることで、その周囲に住んでいる先住民や地域住民が食料を得られなくなったり健康被害が起きたりしています。
写真:ブラジルのアマゾンで、違法な牛の放牧により先住民の土地が奪われている。 © Gabriel Uchida

発電所建設のために奪われた土地を取り戻すために活動するインドの女性人権擁護活動家
労働者の権利や先住民の権利を守るため、資源開発から地域を守るため、立ち上がった人権擁護活動家に対する弾圧が強まっています。企業を誘致したい国が派遣する警察や治安部隊、企業から雇われた警備員などから、活動家が嫌がらせや脅迫を受けたり、命を奪われたりしています。
写真:発電所建設のために奪われた土地を取り戻すために活動するインドの女性。電力会社の関係者から脅しや嫌がらせを受けている。 © Amnesty International (Photo: Fabio Basone)

サプライチェーンでつながる人権侵害

わたしたちの生活を支える製品の原材料の一部が労働搾取によって生産されていることが明らかになっています。わたしたちは、消費者として、企業がそうした原材料を使って製品を製造していないかを知る権利があり、企業に情報開示を求めることができます。

命を削って掘られる鉱物を使ったバッテリー

命を削って掘られる鉱物を使ったバッテリー

パソコン、スマートフォンやタブレットなど、私たちが日頃から使用する数多くの電子機器には、リチウムイオン電池が搭載されています。また、気候危機への対応で低炭素社会に移行する中、電気自動車の普及も進みつつあります。こうした技術革新に欠かせないリチウムイオン電池ですが、そのサプライチェーン上では、人権侵害や環境汚染が確認されています。

2016年、アムネスティは、コンゴ民主共和国において、リチウムイオン電池の原料であるコバルトが死者が出るような過酷な労働環境で手掘りされ、採掘現場で子どもたちが働いていることを確認しました。こうした問題のあるコバルトが、電子機器メーカーや電気自動車メーカーのサプライチェーンに入り込んでいることが調査によって明らかになっています。さらに、南米では、リチウムを採掘する過程で、先住民族の生活を支える水資源や生態系が脅かされていることもわかりました。

こうした状況をうけ、アムネスティは2021年、多くの人権・環境団体とともに、国と企業が人権侵害や環境破壊を回避するために取り組むべき原則を発表しました。提言対象には、環境に優しいエネルギーや電池技術に投資する金融業界も含まれています。

> 命を削って掘る鉱石~コンゴ民主共和国における人権侵害とコバルトの国際取引
> 責任と向き合う時~コバルト・サプライチェーンの人権侵害に対する 企業の取り組み

労働搾取で生産されるパーム油

労働搾取で生産されるパーム油

一輪車に重いパーム果房を満載して狭い橋を運ぶ子ども © Amnesty International / WatchDoc

世界的な有名ブランドの食品や化粧品などの生活必需品には、アブラヤシという植物の実から採取されるパーム油が使われています。しかし、アブラヤシは最低賃金以下の長時間労働や農薬による健康被害、児童労働が起きている危険な労働環境で栽培されており、パーム油は人権侵害で「汚染」されている油と言われています。

2016年、アムネスティは、インドネシアのパーム油生産における違法労働の実態を調べ、それを世界的に知られる企業が支えている実態を明らかにしました。調査したのは、パーム油生産で世界最大手のウィルマー・インターナショナルが経営、または取り引きしているアブラヤシ農園で、過度なノルマ制による長時間労働や親を手伝う子どもたちの労働、毒性の強い除草剤による健康被害、非正規雇用の女性労働者に対する差別など、広範な人権侵害が明らかになりました。

さらに、これらの農園で作られるアブラヤシを原料とするパーム油が、ユニリーバやネスレ、P&Gといった世界を代表する企業9社に供給されていることがわかりました。

> パーム油に潜むスキャンダル~世界的ブランドの裏に労働搾取

進出先の国・地域でつながる人権侵害

グローバリゼーションの下、国境を越えた経済活動が行われ、数多くの日本企業が海外へ進出しています。しかし同時に、進出先の国・地域において、企業の事業活動が直接的または間接的に人権侵害に加担するリスクが高まっています。

進出先国の軍と企業のつながり

2015年、キリンホールディングスはミャンマー国軍が所有する複合企業ミャンマー・エコノミック・ホールディングス(MEHL)との合弁事業提携により、ミャンマー・ブルワリー社をキリンの子会社としました。2017年9~10月、ラカイン州でミャンマー軍がロヒンギャの人びとに対して残虐行為を行う中、キリンの子会社であるミャンマー・ブルワリーは、軍と当局に三度の寄付(総額3万米ドル)を実施しました。その寄付は人道支援に使用したとの主張に反して、軍関係者が金品を受け取っている様子がフェイスブックに投稿され、2018年6月、アムネスティはキリンに対して調査を要請しました。2020年9月、アムネスティは調査報告書の中で、キリンなどのグローバル企業数社とMEHLの提携事業の収益が、国際法違反の残虐行為に手を染めるミャンマー国軍の部隊や幹部に渡っている可能性を指摘しました。いくつかの団体から指摘を受けたキリンは11月、MEHLへの配当金の支払を停止しました。さらに、2021年2月、軍事クーデターを受け、キリンは、国軍の行動は同社の「ビジネス規範や人権方針に根底から反するもの」として、MEHLとの連携解消を発表しました。アムネスティはキリンの決断を歓迎しています。

人権を尊重する企業の責任

アムネスティがこれまで明らかにしてきたように、企業は人権侵害を引き起こしたり、助長したり、製品・サービスや取引でつながったりと、国内外での人権問題に大きく関わっています。企業は規模や業界、活動する国等に関わらず、人権を尊重する責任があり、その責任は国際基準である国連「ビジネスと人権に関する指導原則」に明記されています。

2011年、国連「ビジネスと人権に関する指導原則」(以下、指導原則)が、国連人権理事会にて全会一致で採択されました。指導原則は、2005年に国連事務総長特別代表として任命されたハーバード大学ケネディスクールのジョン・ラギー教授によって提案された「保護、尊重及び救済の枠組み」に基づき、国家の義務や企業の人権尊重の責任範囲を示した国際的な文書です。

「保護、尊重及び救済の枠組み」とは、「人権を保護する国家の義務」、「人権を尊重する企業の責任」、そして、国家および企業の両者ともに救済へのアクセスを保証する措置を求める「救済のアクセス」の3本の柱に基づいたフレームワークを指します。これは、国家の人権保護の義務とは独立して、企業には人権を尊重する責任があるとする国際社会の認識を示しています。この枠組みを実践するためにつくられたのが指導原則です。

指導原則では、企業の人権を尊重する責任として、人権方針を策定し、人権への負の影響を予防または軽減するための「人権デューディリジェンス」と呼ばれる仕組みの構築して、人権への負の影響に対して是正措置を取ることを求めています。

ビジネスと人権に関する国際的な動き

欧米諸国を中心として、企業に対し、事業活動による人権への負の影響を特定し、その対応策を開示するよう求める法規制の整備が進んでいます。

2010年、紛争が絶えないコンゴ民主共和国およびその周辺国を原産とし、武装勢力の資金源となる4つの鉱物(金・タンタル・タングステン・すず)を規制する米国金融規制改革法(通称「ドッド・フランク法」)による紛争鉱物規制ができ、また2019年には欧州連合(EU)でも紛争鉱物規制がスタートしています。

2012年には、米国カリフォルニア州で、サプライチェーンにおける強制労働・人身取引を防ぐための対応について企業に情報開示が義務付けられ、2015年にはイギリス、2019年にはオーストラリアでも、サプライチェーンにおける現代奴隷を防ぐ企業の取り組みの情報開示が義務化されました。また、2017年には、フランスで人権デューディリジェンスの実施を企業に義務づける法律が施行されています。

日本国内の動き

国際的な動向を受けて、日本の経済界や政府においても動きが出てきています。日本政府は、2020年10月に「ビジネスと人権に関する国別行動計画(NAP)」を公表しました。行動計画には、優先的に取り組む分野として、労働者の権利、子どもの権利、新しい技術の発展に伴う人権、消費者の権利、外国人の権利などについて、企業の対応を求めていくことが明記されています。経団連では、2017年11月に会員企業に対する企業行動憲章を改定し、「人権の尊重」を新たに追加しました。

ボランティア募集中!ビジネスと人権チーム

ビジネスと人権チームでは、人権に影響を与える企業の動きについて、情報収集や情報発信を行っています。チームミーティングを月に1回ほど開催し、情報共有やイベント企画等を行っています。

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