3月21日(土)、連続セミナー「子どもと性暴力」第3回目の講演を、アムネスティ東京事務所にて開催しました。
タイトルは『性暴力への予防と支援』、講師は児童養護施設 一宮学園副園長 山口 修平さんです。当日45名の参加者があり福祉・支援団体の関係者が多く来場しました。中には大分県の児童自立支援施設より自費でお越しくださった方もいました。
セミナーに入る前に山口さんが、話の中で虐待・性虐待について掘り下げて話すので、講演の途中で柔軟体操したり、辛い方は途中で退席してもいいですよ、と前置きがありました。
【山口先生ご講演】
児童養護施設とは?
児童福祉法に定められた児童福祉施設の一つで、さまざまな事情(虐待・貧困・離婚・病気・犯罪)により、2歳からおおむね18歳までの子どもたちが家庭に替わる施設で生活しています。入所してくる子どもの6~7割が何らかの虐待(身体的・心理的)を受けています。最近は親のドラッグ・就労問題で入所してくる子どもが増えて来ているそうです。
入所過程は虐待の通告があり、そこからいろいろな調査(社会診断・心理診断・医学診断・行動観察)をして最終的に全体の10%前後の子どもたちが入所してきます。
施設に入所してくる子どもたちの背景へのアプローチ
性的虐待の問題では性のことだけを語るのではなくて子どもたちの心理状態も考えていかなければなりません。親との関係・虐待体験など、もともと子どもたちが抱えるストレス・心理状態を水が満杯の薄いガラスのコップに例え、施設内でのささいなトラブル(足を踏まれた等)でもストレスがコップから水があふれでるように他者への暴力・暴言行為・盗み・虚言・性化行動へと外に向かうタイプと、自傷・引きこもり・依存・過食と内に向かうタイプの2パターンがあるそうです。
施設の職員は子どもが外・内に怒りをぶちまけないように、いろいろと考えながら声がけなどをして対処しています。そしてもう一度発達の概念に戻って、快・不快の感情にどれだけアプローチ出来るかが施設や社会に求められるそうです。 五感(温かいものを温かい内に食べる・自分の話をじっくり聞いてもらえる等)を子どもたちに感じてもらい、感情調整能力(薄いガラスのコップから割れない風船へと)を育てて行く必要があります。
周りの人達との関係性について
山口さんはカナダのバーバラ・ベイさんが広めている「サークルズプログラム」*の、人との関係性・距離を表す図を使って周りの人達との関係性について説明しました。
施設の職員は子どもが外・内に怒りをぶちまけないように、いろいろと考えながら声がけなどをして対処しています。そしてもう一度発達の概念に戻って、快・不快の感情にどれだけアプローチ出来るかが施設や社会に求められるそうです。 五感(温かいものを温かい内に食べる・自分の話をじっくり聞いてもらえる等)を子どもたちに感じてもらい、感情調整能力(薄いガラスのコップから割れない風船へと)を育てて行く必要があります。
- 子どもの発達は先ず自分と一番身近な人達(両親・きょうだい・祖父母)との良好な関わりから始まって、それから夫・妻・恋人・親戚・友達→名前を知っている人(知人・学校の先生等)→顔を知っている人(顔見知りの隣人・知人・近所の子ども)→知らない人・仕事関係の人・上司と内から外に広がって行きます。
- 人との関係性については逆に外から内に進んで行きます(キーワードは互いの同意)。
- 接触レベルはプライベートゾーン→抱擁→肩を組む→握手→手を振る→距離を置く。
- 対話レベルは自分の秘密→秘密以外何でも知っている→相談する→会話する→挨拶・会釈する→話さない、と進んで行きます。
虐待は中心の部分、親・養護者との間で起きます。これによって自分の大切な身体・時間・場所・物が壊されてしまいます。この状態で虐待を受けた子どもたちに性教育をして他人のことを大切にしなさい、と教えてもなかなか理解できません。山口さんの活動では先ず自分のこと(大切な身体・時間・場所・物)を大切にしていくことを教えてから性教育をしていくそうです。
性的虐待とは?
ここでは、性的虐待の定義は「保護者(親権を行うもの・未成年後見人・その他のもので児童を現に監護するものや保護者以外の同居人)がその監護する児童[18歳にみたないものをいう]に対してわいせつな行為をすること、または児童をして、わいせつな行為をさせること。」とします。
他の虐待と比較して主訴が「性的虐待」であることは少なく(全体の2~3%)で、山口さんのいる一宮学園では、入所後に以前受けた性的被害の開示や職員が被害体験を知る機会があります。虐待の中でも性的虐待は外傷が見えにくい、または見えない(身体的暴力・痛みではなく心への侵入)、外からの2次被害(風評・はしたない問題として、あたかも被害者に非があった等)があり、なかなか表面化せず発覚が遅れることが多く、秘密化・潜在化して長期化し被害が重篤化するそうです。
また虐待発覚後も被害にあった子どもは解離(病的な心理状態であると同時に、自分の心を外界の刺激から守る自我防衛状態としての動き)を起こしていることがあり、自分を守るために虐待の記憶があいまいになっていることも多く、事件発覚後、警察の聞き取りなどで説明できずなかなか立件できないこともあります。そして外からの2次被害(あの子ははしたない・距離が近い・派手な格好をしている、などの声)で苦しめられている子どもたちが多くいます。そして、性情報の氾濫(特にインターネット上)の影響とコミュニケーションにおける言葉の貧困について注意を呼び掛けています。特に言葉の貧困については、子どもたちにいやなことは暴力ではなく言葉で伝えよう、ぜひ相談しようと、教えている大人の言葉の貧困が目立つそうです。特に子どもの前に立つ専門職の方が、気持ちを表す言葉のシャワーをいっぱいかけないといけないと、相談する言葉も体得できないと感じているそうです。
影響について
被害者への影響についても、精神的・脳への持続的・突発的な大きなストレスとなるので、副腎皮質ホルモンのバランスが大きく乱れコルチゾール(ストレスホルモン)が過剰に分泌され、視床下部(自律神経をつかさどる機能)や免疫力にストレスがかかり、心理的(PTSD)・身体的(アレルギー・高血圧・ぜんそく・胃炎等)影響がでます。その他の影響・症状では、肥満・知的発達・二次成長リスク(二次成長期の開始が1年早まることで乳ガンの発生率が上がるなど)があります。
不当な扱いを受けた子どもへのケア
このような体験をしてきた子どもに問題行動について注意しても、そう簡単には変われないので、背景へのアプローチで説明した、いままでのストレスでいっぱいな心理状態(薄いガラスのコップ)の理解・手当をすることが大切だと山口さんは言います。そして加害者に対しても事件が起こった途端に注目されることにも意見を述べられ、ほとんどの加害者も過去に不当な扱い(家庭の問題・貧困・生きづらさ・地域の支援がなかったこと等)を受けてきたにもかかわらず被害者としての手当がなかったことを、周りの人達・社会が気が付けず支援できなかったこと、困った子は困って来た子・乱暴な子は乱暴を受けて来た子、と解釈していかないとなかなか虐待・いじめの解決にはならないと話しました。そして、
- 暴力のない、安全・安心な生活(保護感) • 法的対応(刑事事件で起訴・罪名量刑・2次被害防止)
- 「No」と言う練習
- 社会がどのようなシステムで暴力を扱うかを知る
- 援助ではなく、エンパワー(強みに注目)
- 自分の落ち度ではなく、犯罪であるという認知(被害)
- 犯罪・被害が起きた社会に対する大人からの謝罪
を挙げ、特に「No」の練習はとても大切で、日本では人の気持ちを大切にしよう・寄り添うことを教えるなど「Yes」を言う教育をしますが、自分の気持ちを大切にしよう、イヤなことには「No」と言う練習が必要だと提案しました。
課題(退園後の課題)
退園養護の問題については悪循環の流れの例として、高校中退→就労支援(住み込み)→離職→性風俗産業→妊娠・出産・STD(性病・性感染症)・ドラッグ・DVのことに触れ、県からの自立支援金が30万ぐらいしかなく、部屋を借りれない・自動車免許も取れない状態なので就職の選択肢が狭まり、条件の悪い仕事に就職し、3年未満で辞めるケースが多いそうです。それと同時に住まいを失い悩んでいる時に、先輩・仲間の紹介で性風俗産業に取り込まれてしまうそうです。そしてこの業界は一度入ったらなかなか抜け出せないシステムを作っているので、それに負けないような関係性を社会と子どもたちの間に作っていかなければならないと、提言しました。
最後に...。
山口さんは他の施設への講習・講演会、海外の情報・研修等いろいろと経験豊富で内容の濃いセミナーとなりました。特に質疑応答でも繰り返して「自分のコア(大切な自分・身体・場所・時間等)をしっかり育ててあげないと、いくら性教育や他人の気持ちを大切にしなさい、と言っても子ども達には理解してもらえない」と論じていました。このことを私達が理解して性的虐待の防止、被害にあった子ども、または加害者について考え・接していければいいなと思いました。山口さん、セミナーに参加した方々、ありがとうございました。
*カナダで実践されている、親密さと人間関係を学ぶプログラム。
開催日 | 2015年3月21日(土) |
場所 | アムネスティ・インターナショナル日本 東京事務所 |
▽連続セミナー第1回講演の報告を読む
「子どもと性暴力―身近にある現実を知ろう:子どもと性暴力」
▽連続セミナー第2回講演の報告を読む
「子どもと性暴力―身近にある現実を知ろう:男の子と性暴力」