- 2022年9月 5日
- [国際事務局発表ニュース]
- 国・地域:ウクライナ
- トピック:
ウクライナ南東部マリウポリで、親ロシア派武装勢力が「国際法廷」と呼ぶ裁判所を設けて、ウクライナ人捕虜を裁こうとしている。この法外な動きは、ロシア軍の侵攻で多大な被害に見舞われてきた都市での新たな残虐行為と言える。
ここ数日、裁判にかけられる捕虜を収容するためにマリウポリ・フィルハーモニック・ホール内に檻が作られているとする投稿や写真がSNSで広がり、懸念が高まっている。
アムネスティのクライシス・エビデンス・ラボは、マリウポリ市議会がフェイスブックに投稿した写真が、マリウポリ・フィルハーモニック・ホールの内部を撮ったものであることを確認した。
国際法は、拘束する側が敵対行為への参加や紛争中の戦闘行為を裁判で問うことを禁じている。
ジュネーブ条約に基づけば、違法行為が疑われる捕虜は、適正な手続きと公正な裁判を受ける権利があり、正規の裁判所でのみ裁かれる。従って、武装勢力が設置する「国際法廷」で捕虜を裁判にかけようとするロシアのいかなる試みも違法であり、到底受け入れられるものではない。
国際人道法は、捕虜を裁くためだけの法廷の設置を禁じている。公正な裁判の権利を故意に奪おうとするロシアの行為は、戦争犯罪に相当する。またジュネーブ条約は、戦闘に参加した捕虜は訴追から保護されると明記している。
ロシアは、占領側として虚構の法廷を設置することで司法と裁判を愚弄し、プロパガンダの道具にしようとしている。
ロシアが、卑劣な攻撃で廃墟にし5月に占拠したマリウポリを「法廷」の地に選んだのは、極めて残虐で衝撃的だ。
アムネスティは、ロシア軍によるマリウポリの劇場への攻撃を調べた結果、この攻撃は意図的に民間人を狙ったもので戦争犯罪に相当することがわかった。
ウクライナ人捕虜の権利
ロシア軍と親ロシア派武装勢力は、独立的立場の監視団がウクライナ人捕虜に無条件で接触できるようにすべきだ。
国連人権高等弁務官事務所は、「ウクライナ人捕虜が監視団と接触することがないまま拘束され続け、自白を引き出そうとする勢力から拷問を受けるおそれがある」と懸念する声明を出したが、アムネスティも同様の懸念を持つ。
また、ロシア当局がウクライナ捕虜を戦争犯罪人とみなすのは、公正な裁判を保障する推定無罪に著しく反する。
アムネスティはこの数年、ロシアでは拷問、証拠の捏造、政治的動機に基づく起訴などが常態化し、公正な裁判の権利が侵害されている状況を繰り返し明らかにしてきた。親ロシア派武装勢力による「裁判」で、これらの懸念は一層高まっている。
7月29日にあった爆破事件で、親ロシア派武装勢力の自称「ドネツク人民共和国」に拘束されていたウクライナ人捕虜50人以上が犠牲になったが、アムネスティは、この事件を含む戦争犯罪容疑についても早急な国際調査の実施を求めている。ロシア当局が国際調査団の現地訪問を認める必要がある。
ジュネーブ第3条約
刑事裁判を受ける捕虜の保護を定めるジュネーブ第3条約は、「捕虜の裁判は、一般的に認められている独立性と公平性が必ず保証された法廷でのみ行なわれるものとする」と定めている。また、「捕虜は、常に人道的な扱いを受けなければならない。抑留国による不法の作為・不作為で、捕虜を死に至らしめたりその健康を著しく害することは条約の重大な違反であり、これを禁ずる」とも規定している。
戦争犯罪に対する説明責任
ロシアがウクライナに侵攻して以来、アムネスティは、ロシアの戦争犯罪と国際人道法違反を調査・公表してきた。
アムネスティは、ロシア軍の責任を追及するよう繰り返し求め、ウクライナで進行中の国際刑事裁判所の調査を歓迎してきた。ウクライナでの包括的な責任追及・真相解明のためには、普遍的管轄権の原則に基づく国家レベルの取り組みに加え、国連とその関係機関の協調的な行動が欠かせない。
アムネスティ国際ニュース
2022年8月26日
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