- 2022年6月14日
- [国際事務局発表ニュース]
- 国・地域:ウクライナ
- トピック:
(C) AFP via Getty Images
ウクライナ北東部の都市ハルキウは2月末にロシア軍に侵攻されてから、クラスター爆弾や低精度のロケット弾による容赦ない無差別攻撃にさらされ、民間人数百人が犠牲になってきた。自宅や街頭で、広場や墓地で、また、支援物資を受け取る行列に並んでいて住民が犠牲になっている。アムネスティの現地調査で明らかになった。
アムネスティの調査で、ロシア軍がクラスター爆弾と散布型地雷を繰り返し使用していることがわかっている。いずれも無差別に人を殺傷するため、国際条約で使用が禁止されている。
禁止されているクラスター爆弾の多用は、常軌を逸しており、民間人の命をまったく顧みない行為といえる。この残虐な行為を繰り返すロシア軍は責任を問われなければならず、犠牲者とその遺族に十分な補償をしなければならない。
ハルキウ地方軍政局医療部長によると、紛争が始まって以来ハルキウ地方では民間人606人が亡くなり、1,248人が負傷した。アムネスティが調査したロシア軍の攻撃のほとんどで、広範囲に死傷者が出ていた。
ロシアはクラスター爆弾禁止条約と対人地雷禁止条約のいずれにも加盟していないが、国際人道法は、無差別攻撃と無差別に死傷者を出す武器の使用を禁じている。民間人の死傷者を出し、家屋や民間施設を破壊する無差別攻撃は、戦争犯罪にあたる。
遊び場を攻撃
人口150万人のハルキウ市への砲撃は、ロシアがウクライナに侵攻した2月24日から始まった。北部と東部にある住宅地が砲撃の対象となってきた。
4月15日、ロシア軍は工業地帯のミル通りとその周辺をクラスター爆弾で攻撃した。少なくとも9人が死亡、35人以上が負傷した。これらの中には子ども数人が入っていた。ハルキウ市立臨床病院の医師が患者の体から摘出した金属片をアムネスティに見せたが、その中にはクラスター弾に含まれる金属欠片も入っていた。
看護師の女性(53歳)は、複数のクラスター爆弾が爆発したとき自宅の入り口に立っていた。女性がアムネスティに当時の様子を語った。
「突然、あちこちで爆竹の音が聞こえた。爆発があったところでは黒煙が上がっていた。みんな、地面に伏せ、体を覆うものを探した。隣人の息子(16才)は即死だった。その父親は腰を砕かれ、脚も負傷した。どれほどの間、爆撃が続いたのかわからない。1分が永遠に続くような気がした」
別の女性(41歳)は、夫と4歳の娘と散歩していたとき、クラスター爆弾が数発爆発し、重傷を負った。爆弾の破片が、背中、胸、腹部を貫通し、肺と背骨に穴が開いた。攻撃を受けた昼下がりの遊び場には、多数の子連れの家族がいた。女性の夫がアムネスティにこう話した。
「突然、閃光が見えた。娘を抱き抱えて娘の背中を樹木にあてて娘を爆弾から守ろうとした。みんな、地面に倒れ、妻も横たわっていた。血の海の中に倒れている母親を目にした娘は、『おうちに帰ろう、ママが死んじゃった。みんな、死んじゃった』と言った。私も呆然としていた。医師によると、妻は再び話したり歩いたりできるか、わからないという。私たちの世界はめちゃくちゃにされてしまった」
その後、1カ月以上集中治療室にいた妻の容態は、わずかだが改善したという。
アムネスティは、広場でクラスター爆弾のフィン、金属ペレットなどの破片を見つけた。コンクリートの地面には、いくつかの小さな亀裂があったが、クラスター弾の子弾が爆発した時にできた穴だった。
支援物資の行列にクラスター爆弾
3月24日、地下鉄アカデミカ・パブロワ駅近くの駐車場で支援物資を受け取る行列にいた数百人にクラスター爆弾が降り注ぎ、少なくとも6人が死亡、15人が負傷した。
現場近くのペットショップの店員がアムネスティにこう話した。
「爆発で近くの店の窓ガラスが破壊され、ペットショップの前で妻が買い物を終わるのを待っていた男性が犠牲になった。うちの店の正面窓から金属の破片が飛び込んできて、カウンターにいた私の頭上をかすめた。その後、何度も爆発があり、パニックだった。店内は人であふれかえっていたが、みんな、店舗奥の倉庫に逃げ込んだ」
攻撃を目撃した警官は当時の様子を「本当にひどい状況で、破片が雨のように降ってきた」と話していた。
アムネスティの調べで、ウラガンロケットの一部が、道路にできた爆弾穴に埋まったままであることがわかった。ウラガンは、30個の子弾を搭載する。周辺ではクラスター弾のフィンや破片が見つかり、複数の爆弾穴もあった。
ロケットが着弾した場所から約500メートル離れた教会の屋根にも、クラスター弾2発が落ちた。教会は、高齢者や障害者、移動が困難な人たち向けに食料や物資を提供する拠点となっていた。爆発後、牧師たちは、教会の壁やドアを貫通した2発のクラスター弾の破片をアムネスティに見せた。
失った手足
サルティウカ地区に住む女性(30歳)は、3月12日に自宅前の広場にロケット弾が撃ち込まれ、右足を失った。
「爆発音がした時、このベンチに座っていた。その直前、ヒューという音が聞こえたのを覚えている。病院で目が覚めたら、右脚がなくなっていた。3月12日前と以後で人生が変わった。いずれこの体に慣れるとは思うけれど。今も右脚を触ろうとしたり、掻こうとしたりする。こんなことをした相手に何と言えばいいかわからない。絶対、彼らのことを理解できないだろう」
4月26日、同じ地区でクラスター弾による連続攻撃があり、3人が死亡、6人が負傷した。がんを克服した女性(57歳)は、自宅前で支援物資の配給を待っていた。その時、砲弾の飛来音が聞こえ、自宅入り口に駆け寄った時、爆風の中で両脚を失った。「がんと闘って、今度は両脚がない生活と闘わなければならなくなった」と嘆く。
ロシア軍が頻繁に使うウラガンなどの無誘導ロケットはそもそも精度が低く、人口密集地で使うことは無差別攻撃となる。着弾地点の誤差は目標から100メートル以上あり、住宅同士の間隔が数メートルしかない住宅地では、この精度の低さは、実質、住民の命が奪われ、家屋やインフラが破壊されることを意味する。
ウクライナ軍側は、しばしば住宅地域から攻撃するため、その地域の住民は、ロシア軍の攻撃を受けるリスクにさらされる。このウクライナ軍の行為は国際人道法に違反するが、ロシア軍による無差別爆撃を正当化するものではない。
調査方法
アムネスティは、4月と5月にかけて計14日間、41回の空爆(少なくとも62人が死亡、少なくとも196人が負傷)を調べ、生存者、犠牲者の親族、目撃者、負傷者の治療にあたった医師など160人に聞き取りをした。また、攻撃地点にあった物証、特に砲弾の破片などを収集し、さまざまなデジタル資料から、それぞれを分析した。
アムネスティ国際ニュース
2022年6月13日
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