難民とは
戦争、紛争、飢饉、人種差別、宗教弾圧、政治弾圧、極度の貧困など、さまざまな事情で母国を離れなければならなくなった人のことです。
狭義の意味では、難民の保護をうたった国際条約(難民条約)で対象となっている「人種、宗教、政治的意見、国籍、特定の社会集団に属するなどの理由で迫害を受けるか、その恐れがあるために他国にのがれた人」ですが、紛争で大量の人が国から逃げ出している現在、条約の定義を超えた難民保護が求められています。
1951年7月に採択された「難民の地位に関する条約(難民条約)」には、現在、145カ国の政府が加入しており、日本も1981年10月3日に締結しています。この難民条約に規定されているノン・ルフールマンの原則──迫害の恐れのある国に送還されない難民の権利──は非常に重要です。
アムネスティは、その人が難民に該当するかということよりも、送還によって直面する危険に着目。深刻な人権侵害の危険にさらされる危険のある国への強制送還に反対しています。
難民の今(2022年末時点)
いま、世界では1億840万の人たちが紛争や迫害によって故郷を追われています。その内訳は、難民が2,940万人(※)、国内避難民が6,250万人、庇護希望者が540万人、その他の国際保護を必要としている人が520万人となっています。主な難民の出身国は、シリア(670万人)、ウクライナ(570万人)、アフガニスタン(570万人)で、この3カ国で全体の52%を占めています。難民の41%は18歳未満の子どもです。
一方、難民の受け入れ国トップ5は、トルコ(360万人)、イラン(340万人)、コロンビア(250万人)、ドイツ(210万人)、パキスタン(170万人)、となっており、難民の70%が近隣国に逃れています。また、難民、その他の国際保護が必要な人の76%を低中所得国が受け入れています。
※パレスチナ難民を含まない数字。パレスチナ難民は590万人。
世界で故郷を追われた人
難民の出身国
低中所得国での受け入れ
18歳未満の子ども
参考:UNHCR"Global Trends Report 2022"
難民の権利
すべての人びとと同様に、難民の人たちには人権があります。また、難民であるがゆえに以下のような権利もあります。
- 差別からの保護
- 信仰の自由
- 身分証明書および旅券
- 働く権利
- 住居、教育、救済
- 不法入国に対する処罰からの保護
- 移動の自由
国際社会に課せられた義務
国際社会に課せられた義務は、難民の一時的な保護だけではありません。難民が差別や暴力にさらされることなく、安全な暮らしを送れるようにしていくことが、最終的に求められています。それには、次の3つの方法が提案されています。
A. 祖国に戻る
「紛争が終わったら、祖国に帰りたい」――こう口にする難民は少なくありません。ただ、紛争後は国が不安定で安全でないことが多く、帰れるようになるには時間がかかります。
B. 受け入れ国の市民になる
身の危険がなくなる見通しのない場合、難民として認定された国の市民になるという選択があります。もちろん、安定した生活が送っていけるよう、仕事・教育・医療・福祉など国の支援が欠かせません。
C. 第三国定住
最初に受け入れた国の保護や支援が十分でない場合、そこから別の国に移って定住することです。当人の希望と相手国のマッチングが必要になります。ちなみに2015年に第三国に移り住んだ人は約10万人です。
移民とは
移民とは、ある場所から別の場所へ、生活のために(多くは仕事のために)、一時的または永久的に移動する人のことです。十分な食べ物、水、住居へのアクセスが得られないため、また安全を確保するために移動を余儀なくされる人びともいます。職を得るため、家族と再会するために移動する人びともいます。
移民の権利
すべての人びとと同様に、移民の人たちには、生きる権利、恣意的な拘禁や拷問を受けない権利、適切な生活水準の権利があります。移住労働者の権利に特に言及した国際法基準では、国際労働機関(ILO)条約があります。
2003年7月1日、すべての移住労働者とその家族の権利保護に関する条約が発効しました。この条約は、教育の権利、信仰の自由、表現の自由、裁判を受ける権利、働く権利を移民に保障しています。
アムネスティの取り組み
アムネスティは難民・移民・庇護希望者・国内避難民の人権を保護し促進する調査と啓発活動を行っています。これらの人びとの基本的権利を保障し、保護の質の向上と維持に向けた働きかけをしています。人権侵害や保護の欠陥を明らかにし、政策や法改正を啓発し、時には個別のケースや問題について署名活動などを行なっています。
関連用語
庇護希望者(Asylum Seekers)
庇護希望者とは、他国に逃れて保護を求めている人をいい、まだ公式には難民として認定されていない人びとです。庇護希望者は、難民である可能性があるため、難民ではないと判断されるまで難民と同じ権利がある、すなわち、難民条約上の権利を有するといえます。アムネスティは以下を保障するよう働きかけています。
- 庇護を求める国への入国を妨げられない
- 公平な難民認定手続きへのアクセス
- 拘禁されない(明らかに刑事犯罪で起訴されていない場合)
- 家族、友人、弁護士、通訳、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)など支援を受ける可能性がある組織と連絡がとれる
- 労働、教育、社会保障といった経済、社会、文化に関する基本的な権利へのアクセス
国内避難民(Internally Displaced Persons)
国内避難民(IDP)とは、国内での移動を余儀なくされた人びとです。難民は、国境を越えて移動する点で、IDPとは異なります。戦争や民族浄化、宗教による迫害、飢饉といった理由から移動する点は、難民と同じです。
国内避難民の問題は、政府が保護する義務があるにもかかわらず、保護できない、保護する意思がないことです。国内避難民を保護する義務が政府にあることを明確にするために、国連は国内避難民に関する指針を作成しました。これは条約のような拘束力はありませんが、人権法、人道法(戦時法)、難民法にもとづいています。
アムネスティは、国内避難民の人たちの主要な権利を尊重するよう政府や当局に求めています。また、宗教、民族、性別、肌の色、言語を理由に移住を強いることに反対しています。