先住民族 少数民族に対する、差別と偏見
北米の「ファースト・ネイションズ」や中米グアテマラのマヤ民族、北海道のアイヌ民族、ボルネオ島のプナン族、インドシナの山岳地帯に住むリス族やアカ族、中国のウイグル族……。世界の各地に、先住民族や少数民族が暮らしています。
先住民族や少数民族の中には、さまざまな歴史的背景の中で、現在に至るまで社会の中で偏見を持たれたり、あるいは法律によって差別を受けたりしている場合が少なくありません。
経済発展の名の下、鉱山採掘事業や森林伐採、大規模ダム開発などによって、土地を奪われたり周辺環境に深刻な被害を受けたりして、生活の糧を奪われ、さらに社会の片隅へと追いやられてしまいます。
一方で、自らの土地や資源、文化や言語を守るために、開発計画の撤回や正当な賠償を求めて政府と闘っているケースが多数報告されています。しかし、そのリーダーたちには常に身の危険が……。
世界各地の先住民族/少数民族について知ってみませんか?
先住民族の定義と権利
世界には、およそ3億人の先住民族が暮らしていますが、彼らの暮らしや文化、社会はさまざまです。そのため、国際的に決まった先住民族の定義は存在しないという指摘もあります。
しかし、2007年に採択された「国連先住民族権利宣言」では、先住民族について、「植民地化とその土地、領域および資源の奪取の結果、歴史的な不正義に苦しんできた」と書かれています。つまり、先住民族は、近代以降の植民地政策や同化政策によって、自らの社会や土地、固有の言葉や文化などを否定され、奪われてきた人びとである、ということです。この認識は、国際的に確立しつつあります。
また、先住民族とは、自らの伝統的な土地や暮らしを引き継ぎ、社会の多数派とは異なる自分たちの社会や文化を次世代に伝えようとしている人びとである、という定義もあります(ILO169号条約、国連コーボ報告書など)。
先住民族権利宣言は、全部で44条あります。そのなかで最も重要なものは、自己決定権です。自己決定権とは、先住民族は、政治的地位を自分たちで決め、経済的、社会的、文化的な発展のあり方や、その方法なども自分たちで決めることができるという権利です。
その他にも、次のようなさまざまな権利が定められています。
- 同化を強制されない権利
- 土地や資源の返還や賠償などを求める権利
- 自治を求める権利
- 文化的・宗教的な慣習を実践する権利
- 独自の言語で教育を行い、受ける権利
- 伝統的につながりを持ってきた土地や資源を利用する権利、など
この権利宣言に、法的拘束力はありません。ですが、世界各国には、宣言を実現 するために、先住民族と協議して、適切な政策を取ることが求められています。
先住民族と土地の権利
慣習的な土地とは
そもそも、先住民族にとって、土地は「登記して所有する」という権利の対象ではありませんでした。そのため、土地の権利証書や利用する土地の境界を示す地図などは作っていませんでした。土地に対しては、聖地信仰などの宗教的観念を持ち、狩猟や採取などその土地を利用することで、土地とのつながりを伝統的に維持してきたのです。このように、ある集団が特定の土地に帰属意識を持ち、その土地を利用することを慣習的利用、そうした土地を慣習地といいます。
ところが侵略や植民地化される過程で、入植者により「土地所有」の法的な概念が持ち込まれ、それまで利用してきた慣習地を利用できなくなったり、立ち退かされたりするようになりました。これは、土地の権利を示す証拠がない、登記していない、あるいは聖地である、不便であるなどのため利用していなかった土地などが「無主地(住民はいるが、有効な土地所有はなされていない)」とされ、国、政府、国王などに所有するとされてしまったためです。
マボ判決
こうした無主地の概念が否定されたのは、オーストラリアにおいてでした。オーストラリアの最高裁判所は1992年、先住民族の慣習的土地利用が、当時の英国の慣習法(コモン・ロー)によっても有効な土地利用だったことを認めました(マボ判決)。マボ判決は、慣習法に基づき、先住民族が土地を利用する権利(先住権)の根拠となる先住権原を認めた画期的な判決です。先住権原とは、「慣習法あるいは慣習にもとづき保持され、オーストラリアのコモン・ローによって承認される土地あるいは水面に対する先住民族の共同体的、集団的あるいは個人的な権利と利益」(先住権原法223条1項(a))です。その翌年(1993年)、先住権原法が制定され、慣習による先住民族の土地の支配が認められるようになりました。
国連宣言の採択
オーストラリア以外にも、先住民族に土地権を認める動きはあります。 2007年9月13日、国連総会において「先住民族の権利に関する国連宣言」が採択されました。この宣言の第26条は「伝統的に領有もしくは他の方法で占有または使用してきた土地および領土を領有し、開発し、統制し、そして使用する権利を有する」ことを明記しています。
グアテマラでは、先住民族の土地所有を保全する責任は国家にあるとし、伝統的、歴史的に土地を保持してきた先住民族は、その伝統的土地管理の方法を維持することが、憲法で認められています。これに基づき、土地や天然資源の利用について先住民族と調整をはかり、先住民の利用や慣習を尊重するよう求める一般法を制定する運動も起きています。
尊重されない先住民族の土地権
しかし、先住民による土地の管理や利用は認められていないところのほうが多いといえます。例えば、マレーシアのサラワク州、サバ州などでは、先住民族の慣習地が法律で認められているにもかかわらず、実際には尊重されていないため、開発に反対する先住民族が逮捕、襲撃されるといった事件が多発しています。パナマでは、憲法で先住民族コミュニティに必要な土地の留保と集団的土地所有が保障されていますが、警察とその土地の所有権を主張する企業とによって、先住民族が強制的に立ち退かされる事件などが起きています。
憲法や法律で土地に対する先住民族の権利が認められていても、実際にはそうした権利は尊重されないことが多いため、土地を奪われたり、土地の資源を利用できなくなったりする事例はたくさんあります。その結果、都会へ出てスラムなどの劣悪な環境に住み、伝統的工芸品を売ったり、売春をして生活せざるをえない先住民族も多くいると考えられます。
ロマの人びと〜差別と迫害の歴史〜
ロマはインドを発祥の地とし、6~7世紀から移動を始めたと言われています。彼らは現在、ヨーロッパを中心に世界中で暮らしています。全人口はおよそ800万人〜1200万人です。「ロマ」は従来、「ジプシー」などと呼ばれてきた人たちです。彼ら自身は「ロマ」「ロマニ」と呼称しており、ここでは「ロマ」とします。
彼らの長い歴史のなか、周囲の無理解やエキゾチックな風貌から、「流浪の民」といったロマンティックでステレオタイプなイメージで語られたり、いわれなき憎悪によって差別的に扱われ、迫害されてきました。