© Raphaël Bianchi

強制立ち退き

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アジア、アフリカ、中南米、そしてヨーロッパなど、世界各地でさまざまなコミュニティが、政府によって強制的な立ち退きを迫られています。その多くは、長年にわたって差別を受けてきた少数民族や先住民族の人びと、あるいは、貧困のためにスラムに住んでいる人たちです。

ロマの人びと〜差別と迫害の歴史〜

ロマはインドを発祥の地とし、6~7世紀から移動を始めたと言われています。彼らは現在、ヨーロッパを中心に世界中で暮らしています。全人口はおよそ800万人~1200万人です。「ロマ」は従来、「ジプシー」などと呼ばれてきた人たちです。彼ら自身は「ロマ」「ロマニ」と呼称しており、ここでは「ロマ」とします。

彼らの長い歴史のなか、周囲の無理解やエキゾチックな風貌から、「流浪の民」といったロマンティックでステレオタイプなイメージで語られたり、いわれなき憎悪によって差別的に扱われ、迫害されてきました。

スロバキア:隔離された教育環境

スロバキアのロマの子どもたちの多くが、知的障害や学習障害を持つ子どもたちのための特別学校や特別学級、またはロマ専用の学校に入れられています。文化や言語の違いを考慮していないため、このような状況が生じています。

こうした特別学校では、普通学校と比べて教育カリキュラムや設備が不十分なため、子どもたちが普通学校に編入したり上級学校に進むことはほぼ不可能になっています。そのため、政府が適切な教育の機会を提供しない限り、将来の雇用の機会が奪われ、貧困が進むという悪循環に陥ります。

スロバキア政府は、ロマの子どもたちの隔離は政府の方針ではないと主張していますが、それを問題と認めることもなければ、改善しようという努力も見られません。

スロバキアのロマ人口の約3分の1が街外れの集落に住んでおり、水道、電気、下水道設備、舗装道路、その他の基幹施設がほとんどない状態です。スロバキア東部レタノヴチェ近郊のロマ居住地区に住むカタリナ・クルテノヴァさんは、「家にはロウソクが1本しかなく、子どもたちに家で勉強してほしいけれど、そうするとすぐロウソクなくなってしまうから…」と語っています。

ロマの人びとも他のスロバキア国民と同じように将来への希望を持っています。スロバキア政府はロマの子どもたちが教育を受ける権利を促進すべきであり、ロマの隔離と貧しい居住地区を過去のものとしなければなりません。

また、ロマのコミュニティが自分たちの生活に影響する政策の策定やプログラムの中で十分に参画できるようにするため、欧州連合によるスロバキア政府への支援が求められています。

セルビア:立ち退かされ、コンテナに押し込まれて...

2010年3月30日、セルビアの首都ベオグラードは新しい道路を建設するため、ベルビルという無登録居住地区に住む少なくとも300所帯のロマの人びとの強制立ち退きを4月末に開始すると宣言しました。その後、立ち退きは一時的に停止しましたが、住民は停止期間や立ち退きの日程などについて全く知らされていないため、不安な日々を送っています。

ベルビルに住むロマの人びとは、市の中心地で入手できるスクラップや再生材料を集めて売ることで生計を立てていました。立ち退きによって、彼らは唯一の収入源を絶たれてしまうことになります。彼らは立ち退きやその代替となる適切な住居についての情報も知らされていません。ベオグラード市は、強制立ち退きに該当する家族をコンテナに収容する予定だと述べています。

ベオグラード市は、2009年8月にガゼラという居住区でも強制立ち退きを実施していて、ロマの114の家族が、ほとんど公共サービスを利用できない市の郊外にある金属製のコンテナに再定住させられました。コンテナは換気が悪く、湿気も高く、過密状態になっていて、適切な住居とは程遠い状態です。

国際人権法は、強制立ち退きは、影響を受けるコミュニティと真摯な協議を行って他の代替措置が十分に検討された後、最後の手段として行われるべきであるとしています。

当局は、ロマの人びとに適切な通告書を送る義務があり、強制立ち退きの結果、どの家族もホームレスになったり人権侵害の対象になったりすることがないよう保障しなければなりません。これには、家屋破壊、所持品、収入源の喪失への保障を含む法的な救済措置も含まれています。またセルビア政府は、ベオグラード市当局に国際法を順守させる義務があります。

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