死刑制度のない社会へ
スープのよろずや「花」が届けたい「死刑のない社会にしたい」という3つ目の願いについて、「原発」と「戦争」については賛成だけれど、死刑は無くさない方がいいのではと、少なからずの方々から言われました。それは私が予想し覚悟していたようでもありました。
「原子力発電」が今後革新的な技術の進歩で安全に供給されるものとなったのなら、その時は違う選択もありなのかもしれない、「戦争放棄」について、何らかの他の方法で今以上に食い止められる力を社会が持つことができたのなら、その社会にあった憲法について論ずることもありなのかもしれない、と考えたりします。しかし、私のなかでは、社会の有り様がどのように変わったとしても死刑はあってはならない、というのが動かしがたいものでありました。そして、人に伝わる言葉でその理由を表現することの難しさを感じながらも、この通信を準備する過程のなかで、私の願いはさらにゆるぎないものに変わっていきました。凶悪犯罪人に対する国家による死刑と、テロ国家に対する正義のための戦争という論理には共通項があり、戦争と死刑には密接な関係性があることを知らされました。
又終末期医療に携わる医師として、尊厳死の問題は大きく、またそれは安楽死のテーマにもつながっています。大変に飛躍するように聞こえるかもしれませんが、積極的安楽死と死刑制度容認には共通する思考性があるとも感じています。
『・・・死刑について考えることは自分(たち)の生命のありかたを考えることだ、というのは、この意味なのだ。わたし(たち)は、自分(たち)自身が為すべきことを権力に代行してもらうことで、社会生活を円滑に、いや民主的に営んでいる——と思いこまされてきた。死刑制度は、わたし(たち)自身の生命にかかわることそのものを権力によって代行してもらう、もっとも極限的な制度にほかならない。この基本認識をどのように深化させることができれば、殺された側の、殺されたものを愛する側の心の中に届くような死刑制度のことばが発見できるのだろうか?』
「死刑の[昭和]史」 インパクト出版 の中で、池田浩士さんは、こう述べています。
重いテーマですが、裁判員制度が始まった日本社会のなかでは、今一人一人にとって避けられないテーマとして向き合う必要が生じています。これからのこの通信が、その一助となれば幸いです。
2013年5月 スープのよろずや「花」代表 伊藤真美
伊藤真美(いとう・まみ)さんのプロフィール
1984年信州大学医学部卒業。日本内科学会認定内科専門医。緩和医療学会暫定指導医。佼正病院、都立駒込病院化学療法科、 自治医科大学血液科勤務を経て、1989年から1年、インドの Gujarat Ayurveda Universityに留学。1990年、米国のCalvary Hospital 及びMemorial Sloan-Kettering Cancer Centerで研修。 1991年から 亀田総合病院血液内科に勤務。1995年、千葉県千倉町に「花の谷クリニック」開設。無床の内科診療所としてスタートした花の谷クリニックは、 1999年に10室の緩和ケア病棟を開設、2006年に在宅支援診療所となった。 一般内科外来診療、緩和ケア病棟、在宅ケアの3つを柱にした有床診療所である。生活を支える視点を大事にした看護や介護を提供し、社会のありようについても発言することを目指し、 2013年9月に「スープのよろずや『花』」を開店した。著書に『しっかりしてよ!介護保険』草思社、『生きるための緩和医療』医学書院、関連著書に『花の谷の人びと』(土本亜理子著)シービーアール出版。