気候変動と人権

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気候変動は人権問題

地球温暖化により、世界各地で豪雨や巨大な台風・ハリケーン、猛暑や干ばつなどの異常気象が相次ぎ、それに伴う災害は年々激しさを増しています。このような気候変動は地球に大きな影響を及ぼしていますが、当然、そこに住む人間の生活にも大きな影響を与えています。

台風ヨランダで壊滅的な被害を受けたフィリピンの町
台風ヨランダで壊滅的な被害を受けたフィリピンの町 © DFID (CC)

例えば、2013年にフィリピンを直撃した巨大台風ヨランダでは、6,000名以上の人が亡くなり、1,600万人が被災しました。被災前から貧困などの状況にあった人びとは、被災して家族や住居、生計手段を失ってしまい、さらなる困難に直面しています。

このように気候変動は、環境だけでなく、下記のような私たちの基本的人権と密接に結びついています。

<生きる権利>

私たちはみんな、生きる権利があり、自由で安全に暮らす権利があります。しかし、気候変動による影響は、この地球上に暮らす何十億という人たちの生命と安全を脅かしています。最も顕著な例は、暴風雨や洪水、山火事などの異常気象です。世界保健機関(WHO)は、気候変動によって2030年から2050年の間に、年間25万人が命を落とすと予測しています。

<健康への権利>

私たちはみんな、到達可能な最高水準の身体的・精神的健康を享受する権利を持っています。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)によると、人為的な気候変動が健康に及ぼす主な影響は以下の通りです。

  • 傷害のリスクの増大
  • より激しい熱波や火災などによる傷害、疾病、死亡リスクの増大
  • 食料生産の減少による栄養不足のリスクの増大
  • 食料・水や媒介感染症による疾病リスクの増大

気候変動によって悪化する自然災害などのトラウマを受けた人たち、特に子どもたちは、心的外傷後ストレス障害 (PTSD)に苦しむ可能性があります。また、化石燃料の採掘と燃焼などによる大気汚染で、2020年だけでも120万人以上が死亡する直接の原因となっています。

<居住の権利>

私たちはみんな、自分と家族のために、適切な住宅を含め、適切な生活水準を確保する権利を持っています。しかし、気候変動によって引き起こされる大洪水や山火事などで家屋を破壊された人びとは、避難生活を余儀なくされています。また、海面上昇は低地に住む世界中の数百万人の家屋を脅かしています。

<水・衛生に対する権利>

私たちはみんな、安全な水と、健康を維持するための衛生設備を利用する権利を持っています。しかし、気候変動による気温の上昇、海面水位の上昇などの影響で水資源の質と量が脅かされ、すでに7億8,500万人が、安全な水源や衛生設備を利用できずにいます。

気候変動によって最も影響を受ける人たち

気候変動の問題は、他の人権問題を考えるのと同様に、不公正の問題として捉える必要があります。その影響は、特定のコミュニティやグループ、すでに不利な立場に置かれ差別を受けている人たちにとって、より顕著なものとなっています。※下記は一例です。これらに限定されるわけではありません。

  • 途上国、特に沿岸国や小島嶼国の人たち
    低所得国、特に土地が低平な小島嶼国や後発開発途上国の人たちは、温室効果ガス排出にほとんど貢献していないにも関わらず、すでに最も大きな被害を受けています。これは、気候関連の災害にさらされるからだけでなく、政治的・社会経済的要因、例えば植民地主義の永続的な影響や不平等な資源配分など、気候関連の災害を増幅させる根本的な要因もあります。
     
  • 環境レイシズムで苦しむ人たち
    気候変動や化石燃料による汚染の影響は、人種やその他の社会的階層にも及んでいます。たとえば北米では、有色人種の貧困層が住む地域が発電所や石油化学施設、製油所に隣接していることが多いため、この地域に住む人たちは有毒な空気を吸わざるを得ません。彼らは呼吸器疾患やガンの罹患率が著しく高く、アフリカ系アメリカ人が大気汚染で死亡する確率は、アメリカ全体の人口の3倍です。
     
  • 疎外された女性たち
    女性は天然資源に依存する役割や仕事に縛られることが多く、そのために気候の影響をより強く受けています。また、金融や技術へのアクセス、土地所有権を否定される場合も多く、そのために気候変動の影響を受けるリスクが高いと言えます。
     
  • 先住民族
    生計や住居、薬、文化的アイデンティティを自然環境に大きく依存しており、また、歴史的な土地収奪や強制立ち退きによって気候関連の災害が比較的起こりやすい地域に住んでいることが多いため、気候の影響に最も苦しむグループの一つです。
     
  • 障がい者
    障がいのない人と比べ、気候災害時には大きなリスクにさらされます。と同時に、災害リスク軽減戦略において、障がい者の人たちのニーズや意見は無視される傾向にあります。
     
  • 子ども
    子どもや若者にとって、成長や発達の過程での環境要因は、その後に大きく影響します。また、あらゆる権利に影響を与える強制移住は、特に子どもにとって深刻です。

気候変動の原因と対策

地球温暖化は、化石燃料の燃焼、農業と森林伐採、土地利用の変化、などが主な要因です。中でも、化石燃料(石炭、石油、天然ガスなど)の燃焼は、地球温暖化の原因である温室効果ガス(二酸化炭素やメタンなど)排出量の70%以上を占めています。排出された温室効果ガスが地球を覆うと、大気中にエネルギーが閉じ込められ、地球が高温になります。

2015年に開催された国連気候変動枠組条約締約国会議(COP21)で、2020年以降の世界共通の目標として、産業革命前からの平均気温の上昇を1.5℃に抑える努力を求めるパリ協定が採択され、温室効果ガス排出削減のための新たな国際的枠組みとなりました。

これを受けて2018年に発表されたIPCCの「1.5℃特別報告書」で、今後、人類にとって最悪の結果を避けるためには、地球の温度上昇を工業化以前の水準から絶対に1.5℃以内に抑えなければならないこと、また、その実現のためには、2030年までに温室効果ガス排出量を2010年比で45%削減し、2050年までにネットゼロ(排出量から吸収量と除去量を差し引いた合計が正味ゼロ)とする必要があることが示されました。

また、2023年の最新の報告では、世界の平均気温はすでに1.1度上昇しており、2030年代には1.5度に達する可能性が高いとされ、気温上昇を1.5℃に抑えるためには、温室効果ガス排出量を2019年比で2030年までに43%(CO2は48%)、2035年までに60%(CO2は65%)削減する必要があるという道筋が明示されました。

一方で、温室効果ガスの世界の排出量は、2020年には新型コロナウイルスの大流行の影響で一時的に減少したものの、以降は再び増加し、記録的な水準に達しています。

気候危機が人権に及ぼす最悪の影響を緩和できる水準にまで温室効果ガスの排出を削減するためには、化石燃料ベースのエネルギーシステムから再生可能エネルギーインフラへの移行が急務です。同時にそれは、すべての人がエネルギーを利用できるよう、また、すでに不利益を被っている国やコミュニティ、個人へのさらなる負担とならないよう、公正かつ持続可能で人権を考慮したものでなければなりません。

日本の取り組みと問題点

パリ協定で示された1.5℃目標を達成するためには、電力源の中で最も多くの二酸化炭素を排出する石炭火力発電を、先進国は2030年までに、その他の国も2040年までに廃止する必要があります。

2023年11月に開催された国連気候変動枠組条約締約国会議(COP28)では、「2030年頃までの10年間で、化石燃料からの脱却を加速する」ことが合意され、また、2024年4月のG7気候・エネルギー・環境相会合でも、「2030年代前半までの既存の排出削減対策が取られていない石炭火力の段階的廃止」が明記されました。

世界の多くの国々が、太陽光や風力、地熱、水力、バイオマスなどの再生可能エネルギーに舵をとる一方で、日本は電力における水素・アンモニア混焼を「排出削減対策」と位置付け、引き続き石炭火力を使い続けるとともに、今後、この技術をアジア諸国へ拡大していく計画を立てています。この技術は"CO2を排出しない"とされていますが、現時点で、排出削減効果の確実性が乏しく、環境や人体への悪影響も懸念されています。

日本政府はまた、排出された二酸化炭素(CO2)を回収して地中などに貯留する炭素回収貯留(CCS)も推進しています。しかし、CCSも水素・アンモニア混焼同様、未検証の技術でリスクが大きく、これまでにCO2漏洩事故も起きていることから、その安全性が疑問視されています。加えて、マレーシアやインドネシアなどのグローバルサウスにCO2を輸送・貯留する計画は、日本のような先進国が化石燃料を大量消費してきたことで引き起こした気候変動への責任を他国に押し付けるようなもので、明らかに気候正義の原則に反しています。

世界第5位のCO2排出国であるにもかかわらず、日本はG7で唯一、石炭火力の廃止期限を明示していません。日本政府は、早急に石炭火力の段階的廃止に向け行動を起こすべきです。と同時に、気候変動を引き起こしてきた先進国の1つとして、気候危機の影響に直面している貧しい国々や人びとへの支援も強化しなければなりません。

アムネスティが日本政府に求めること

アムネスティ日本は、気候変動が人権に及ぼす深刻な影響を強く認識しており、日本政府に対して以下の措置を強く求めます。

  • 温室効果ガス削減の強化:国際人権法の下での義務を果たすため、2030年までに温室効果ガス排出を2019年度比で65%以上削減する具体的な政策を導入すること。これには、再生可能エネルギーの導入拡大や化石燃料からの脱却が含まれます。
  • 人権の尊重:気候変動対策において、国際人権法に基づき、特に脆弱なコミュニティの人々の権利を尊重し、彼らの声を政策に反映させるための参加型プロセスを確立すること。これには、少数民族、低所得者層、島嶼部の住民などが含まれます。
  • 損失と被害への対処:気候変動による損失と被害に対して、適切な補償メカニズムを導入し、被害を受けたコミュニティの再建と回復を支援するための財政的支援を確保すること。
  • 国際協力の推進:国際社会と協力し、国際人権法に基づいた気候変動対策におけるリーダーシップを発揮すること。これには、気候変動に対する資金提供や技術支援が含まれます。
  • 透明性と説明責任:気候変動対策に関する政策決定プロセスにおいて、透明性を確保し、国民に対する説明責任を果たすこと。

気候変動は人権の問題であり、日本政府がこれらの措置を直ちに実行に移し、気候変動と人権の課題に真摯に取り組むことを強く求めます。

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