2014年3月25日、アムネスティ日本は他団体と協力し、取調べの可視化を求める院内集会を衆議院議員会館で開催しました。
なぜ「可視化」が必要なのか
えん罪被害者の皆さんからの報告に先立ち、取調べの可視化を求める市民団体連絡会を代表して、監獄人権センター代表で弁護士の海渡雄一さんから本日の院内集会の趣旨説明がなされました。
海渡さんは、「えん罪被害者となり苦しめられた方々の生の声を聞けば、えん罪防止のためには、全事件・取調べ全過程の可視化しか有りえないのだということが実感されると思う。」として、本日の集会が、取調べの可視化の究極の目的であるえん罪防止を実現するために必須の機会であると述べました。
えん罪被害者によるリレートーク!
院内集会では、北九州・爪ケア事件、布川事件、足利事件、三鷹バス痴漢えん罪事件、志布志事件、東電社員殺害事件の各えん罪被害者の皆さんから、過酷な取調べによる自白強要の実態について報告がなされました。
■上田里美さん(北九州・爪ケア事件)
上田さんは、患者さんの爪をケアする行為が傷害事件とされて、約1か月、朝から夕方まで毎日取調べを受けました。
上田さんは、「私がいくら『高齢者の爪は切ると形がボロボロ崩れてしまう。』と説明しても、警察は『文献がないから信用できない。』として聞く耳を持ってくれませんでした。何度説明しても水掛け論になってしまいました。」「取調べの録音・録画があれば、声のトーンや表情で本当のことを言っているかどうか分かったはずです。」と、理不尽な取調べに怒りをにじませました。
■桜井昌司さん(布川事件)
桜井さんは、強引な取調べによって虚偽の自白を強要され、強盗殺人容疑で無期懲役の判決を受けました。その後自白の信用性が疑われて再審無罪判決が言い渡されるまで、44年間という長期間、強盗殺人犯の汚名を着せられました。
桜井さんは「私は取調べ開始から5日目で自白してしまいました。人間は(取調べの現場のような)喧嘩しているような状態には耐えられないのです。」「警察官は、いつも人を犯罪者だと疑っているので無実の人を見抜く目を持っていない。警察官という職業がえん罪を作る、という認識をマスコミ・一般社会が持つべきだと思います。」と訴えまし た。
■菅家利和さん(足利事件)
1990年、菅家さんは、突然家にやってきた警察官に殺人事件の犯人として連行されました。強引な取調べによって虚偽自白に追い込まれ、無期懲役の判決を受けましたが、DNA鑑定のやり直しによって、2010年に再審無罪が確定しました。
菅家さんは、「警察官からは机を思い切り叩かれたり、足蹴にされたり、顔を殴られたり、『バカ面しやがって』という暴言を吐かれたりしました。」「一部のみの可視化では (自白を得ることのみを目的とする)警察の思いどおりになってしまう。」として全面可視化の必要性を強調しました。
■津山正義さん(三鷹バス痴漢えん罪事件)
津山さんは、デートに向かうために乗っていたバスの車内で痴漢をしたとされています。しかし、津山さんが痴漢をしたという客観的な証拠は何もありません。
津山さんは訴えます。「警察官は『私の仕事は君を有罪にすることだ。君を有罪にするために捜査をし、証拠を集めている。』と言いました。真実が何かではなく、ただ有罪 にすることだけが警察の目的であるということが、この言葉に現れていると思います。」「えん罪には誰が巻き込まれるか分かりません。こんなにも悔しい、苦しい、みじめな思いをする人が一人でも出ることのないように、取調べの全面的な可視化を求めます。」
■藤山忠さん・懐俊裕さん(志布志事件)
志布志事件とは、鹿児島県議会議員選挙において住民に現金などが配られたとして13名が公職選挙法違反で起訴された事件です。裁判では、捜査の過程で得られた全自白が強要されたものであり信用性がないとして12名(1名は公判中に死亡)全員が無罪を言い渡されました。この事件に関連して任意で取調べを受けた川畑幸夫さんは、家族からのメッセージに見立てた紙を踏みつけるという行為(踏み字)を強制されるという、信じがたい経験をしました。
藤山さんは、「この事件は、取調べの可視化がなされていれば、起こりえない事件でした。志布志事件を忘れることなく、本日のような機会で引き続き取り上げて欲しいと思います。」と、決して忘れ去ることのできない苦しみを語りました。 懐さんは、自白の強要に耐えられず川に飛び込み、自殺を図りました。ここまで無実の人を追い詰める現在の取調べ手法を放置しておいてよいのでしょうか?
■ゴビンダ・プラサド・マイナリさん(東電社員殺害事件)
ゴビンダさんからは、本日の院内集会のためにお手紙を頂きました。 お手紙には、「けいさつやけんさつの取りしらべは、私がやった、とどなり、はじめから犯人と決めつけるものでした。」「ビデオでさつえいしておけば、こういうひどい取り調べはできないと思います。」と書かれていました。
えん罪被害者と家族の苦しみ
会場から、えん罪被害者とされたことで、ご家族にどのような影響があったかとの質問が投げかけられ、えん罪被害者の皆さんからは、口々に、「えん罪被害者本人は塀の中に入ってしまうので社会から隔絶されるが、家族は社会から冷たい仕打ちを受けてしまう。」との声が上がりました。
桜井さんは、親戚の娘さんが結婚する際に相手方の親御さんから反対された、というお話を聞いたそうです。
上田さんは、「子どもたちは周囲の心無い言葉に傷ついたこともあると思いますが、 私が保釈されて帰った時も、いつもどおりに『お母さんお帰り。』と迎えてくれました。」と当時を振り返って涙ぐまれました。
菅谷さんのご両親は、菅谷さんが刑務所に入れられている間に亡くなられたそうです。
現在も高裁で闘っている津山さんは、「脳梗塞後のリハビリで体の悪い母が、2時間かけて留置場にいる私のために薬を届けてくれました。将来生まれてくるであろう私の子どもも含めて、えん罪被害者の家族がどれだけの悔しさ、もどかしさ、負担を抱えているか知って欲しいです。」と訴えました。
えん罪をなくすために
3月27日、袴田事件で再審決定がなされ、袴田巌さんが48年ぶりに釈放されました。この事件でも、多くのえん罪事件同様、長時間の過酷な取調べが行われました。
このようなえん罪事件を防ぐには、全事件、全段階における取調べの録音・録画を実現し、取調べが適法になされることを保障し、事後の検証を可能にすることが要求されます。
アムネスティ日本は、本日のえん罪被害者の皆さんの証言を法制審に反映させることを求め、取調べの可視化実現を目指します。
開催日 | 2014年3月25日(火) |
開催場所 | 衆議院第2議員会館 第1会議室 |
主催 | ※取調べの可視化を求める市民団体連絡会 |
※取調べの可視化を求める市民団体連絡会
呼びかけ団体: アムネスティ・インターナショナル日本/監獄人権センター/日本国民救援会/ヒューマンライツ・ナウ
構成団体: 冤罪・布川事件の国家賠償請求訴訟を支援する会/国際人権活動日本委員会/志布志の住民の人権を考える会/社団法人自由人権協会/人権と報道・連絡会/菅家さんを支える会・栃木/富山(氷見)冤罪国賠を支える会/なくせ冤罪!市民評議会/名張毒ぶどう酒事件全国ネットワーク/袴田巖さんの再審を求める会/袴田巌さんを救援する清水・静岡市民の会/フォーラム平和・人権・環境/無実の死刑囚・袴田巌さんを救う会