1月17日、アムネスティ日本は他団体と協力し、「取調べの可視化を求める市民集会」を 開催しました。

当日は、約250名の参加者が、冤罪被害者、映画監督の周防正行さん、ジャーナリストの江川紹子さんの話に聞き入りました。

問題だらけの「可視化案」

取調べの可視化の議論が、法制審議会新時代の刑事司法制度特別部会において終盤を迎えてい ます。しかし、その中身は問題だらけ。

特別部会では、録画の対象事件を、刑事事件全体のたった1.9%しかない裁判員裁判対象事件に限定した上、対象事件であっても録画しなくてもよい 「例外」を設ける案と、録画する部分を取調官の裁量に委ねる案が検討されています。

これではほとんどの事件の取調べは、今までどおり「密室」のままということになります。一体、こんな内容で「可視化」制度といえるのでしょうか?

「密室」における取調べの実態とは

志布志事件(鹿児島選挙違反事件)のドキュメンタリー映像に続いて、2011年12月22日に起き た三鷹バス痴漢冤罪事件の冤罪被害者、津山正義さんから、取調べの実態が報告されました。

津山さんは、取調べに当たった警察官の「私の仕事は君を有罪にすることだ。」という言葉が 忘れられないそうです。 警察官は取調べの中で、「目撃者が何人も出ている。」「カメラに痴漢をしている姿が映っている。」というウソを言って、津山さんに自白を迫ったそうです。

自白を取るためなら、こんな嘘も平気でつくという取調官の実態が、生々しく語られました。

冤罪防止実現のために

hrckashika2.jpg周防正行さん

hrckashika1.jpg江川紹子さん

続いて、映画監督で法制審議会新時代の刑事司法制度特別部会委員の周防正行さん、ジャーナリストの江川紹子さんをパネリストに、弁護士で監獄人権センター代表の海渡雄一さんをモデレーターに迎えてパネルディスカッションが行われました。

「検察・警察は、これまでの取調べ方法により真相究明の成果を上げてきたのであって可視化を進めると治安が悪くなる、としている。だが、そのような証拠はあるのか。」周防さんはそう疑問を投げかけました。

江川さんは、「取調べの可視化自体が目的なのではなく、冤罪をなくすことが目的。可視化だけでなく、身柄拘束、証拠開示の問題も含めて司法制度を改善してゆくべき。」「可視化は客観的で、フェアなもの。弁護側だけに有利なものではない。フェアな司法制度を作る象徴。」「警察官・検察官には、自分たちのストーリーがあって、それに沿って(取調べを受ける側の)言葉を拾ってくる。そういった作為を許さないために、取調べ全過程の録音・録画が必須。」と述べました。

また、私たちが可視化の実現のためにまず何をすべきか、という問いに対しては、周防さんは 「皆さんには、まず法制審の存在を知ってほしい。そこでの議論に耳を傾けてほしい。」と訴えました。

江川さんは「事件の内容を問わず、横断的に可視化を求める運動に関わるべき。」 としました。

適正な司法判断のために

議論は、取調べの可視化の問題にとどまらず、なぜ「無辜の不処罰」「疑わしきは被告人の利益に」といった司法制度の大原則が守られないのか、という問いにまで発展しました。

周防さんは、「捜査機関は、たとえ無辜の1人を犠牲にしても10人の真犯人を逃すのはとんでもない、悪いことした奴は絶対罰せられるべきだという思いが強すぎる。裁判をやれば、必ず真相が明らかになると信じている私たちにも問題がある。」と指摘。

江川さんは、「調書さえあれば裁判所が有罪にしてくれる、ということがまかり通っている。強大な権力を持つ裁判所 が捜査機関にきちっと証明を要求すべき。そういう裁判所に対する批判をしてこなかったジャーナリズムも悪い。」と述べました。

また、周防さんは、違法な捜査が明るみにならない背景について、「日本の社会は身内を裏切ることに厳しい社会。世の中の正義のために告発した人をなぜ応援できないのか。」と訴えました。

取調べの可視化(全過程の録画)は、冤罪事件をきっかけに、自白に頼りすぎる取調べのあり方を改善しようということが出発点でした。
それにもかかわらず、これまでの取調べを正しいと信じて疑わない警察、検察、そして法務省の官僚によって歪められようとしています。

アムネスティ日本は、周防さんや江川さん、そして他団体と力を合わせて、今後も法制審議会における取調べの可視化の議論を注視し、全事件・例外なき全過程の録画を求めていきます。
 

▽2014.01.17 要請書: 全事件の取調べの全過程録音・録画こそ求められています

▽取り調べの可視化についてもっとよく知る: なぜ、取調べの可視化が必要なの?

 

開催日 2014年1月17日(金)
開催場所 弁護士会館
主催 取調べの可視化を求める市民団体連絡会
共催 日本弁護士連合会

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