2011年、アムネスティ・インターナショナルは創立50周年を迎えました。アムネスティ日本も、この大きな節目に、さらなる成長の方針を掲げ、50周年キャンペーンの推進など、さまざまな課題に取り組みました。8月1日には公益社団法人へ移行し、新事務所において、新たな活動をスタートしました。

国際キャンペーン(海外の活動)

50周年キャンペーン

アムネスティ・インターナショナル創設50周年の国際キャンペーン(AI@50)として、「表現の自由」、「死刑廃止」、「企業の社会的責任」に集中して取り組んだ。とくに「表現の自由」では、国際的に選ばれた世界各地の11 のケースについて、ウェブサイトで「Freedom 2011」署名活動を実施した。「死刑廃止」では、サウジアラビアと、欧州で最後の死刑存置国ベラルーシに焦点をあてた。

「企業の社会的責任」

ナイジャーデルタの石油採掘と人権侵害について、署名活動とあわせて全国スピーキング・ツアーを実施し、現地からゲストを招聘し、全国5 ヵ所で講演会を実施した。

性と生殖の権利

2011 年3 月から年間を通して、ニカラグアにおける性暴力被害者のための保護政策を推進することを、ニカラグア政府に要請する署名アクションを実施した。署名はウェブサイト上とはがきであわせて2600 筆以上が集まり、2012年1 月にニカラグアの新大統領に送付する予定である。世界各地の支部がニカラグアのアクションに参加し、ツイッターなどのソーシャルメディアを含めて10 万を超える人びとが、アクションに参加した。

強制立ち退き

セルビアにおけるロマの強制立ち退きの国際アクションに参加し、署名アクションを展開した。日本で集められたはがきとオンラインでの署名2661 筆を含め、世界各地から2 万人以上がこの署名に参加した。署名は10 月19 日に、ベオグラード市内で、アムネスティ代表団によってセルビア副首相に直接手渡された。副首相と会談したアムネスティ代表団は、セルビア政府が強制立ち退きを停止し、国際基準に沿って強制立ち退きで影響を受ける人びとを保護する法律の整備を申し入れた。

ナイジャーデルタ

ナイジャーデルタのアクションは、2 つの段階にわけて取り組んだ。5 ~ 11 月には、就任直後のナイジェリア大統領宛に、企業を適切に規制する法制度の整備を求めるアクションを実施し、日本国内で集まった1500 通のはがきを大統領に郵送した。

さらに、12 月からは、同地域の汚染の原因となったシェル社に対して、汚染除去に着手するよう求めるアクションをはじめた。本アクションは、来年5 月のシェル社の年次総会まで継続する。また、ナイジャーデルタから活動家を招き、スピーキングツアーを行った際は、企業のCSR 担当者向けにもセミナーを実施し、企業に対する意識喚起に努めた。

朝鮮民主主義人民共和国の人権侵害への取り組み

アムネスティ・インターナショナルは、朝鮮民主主義人民共和国の人権侵害に関する報告書を発表すると共に、50周年国際キャンペーン「表現の自由」のケースの一つとして、ヨドク収容所を含むすべての政治囚収容所の即時閉鎖とすべての政治囚とその家族の無条件での釈放を求める署名活動を展開した。日本支部でもWeb 上やリーフレットを使った署名アクションを実施した。

署名を提出

9 月には、アムネスティ・インターナショナル、ヒューマンライツウォッチをはじめとする世界の40 のNGOが結束し、東京にて「北朝鮮の人道犯罪阻止国際NGO連合(ICNK)」を結成した。当面の活動としては、国連での事実調査委員会設立をめざし、国内では、その設立を求める国会決議の採決に向け、11 月、ICNK 主催による院内集会が開催され、コリアチームが参加した。

その他 - 中東・北アフリカ/ビルマ

大きなうねりとなった中東・北アフリカにおける、変革を求める市民に対する政府の武力弾圧に対して、さまざまな取り組みを行った。2 月、3 月と連続して緊急のアクション・キットを発信し、またWEB サイトにおいても、バーレーン、イエメン、シリアのアクションを実施した。5 月に実施した、シリアにおける市民への弾圧の即時停止を求める大統領宛のアクションは、世界中で16 万5000 筆以上の署名が集まり、署名は英国、スウェーデン、ギリシャなどのアムネスティ支部によって、シリア大使館に提出された。

10 月12 日、ビルマ(ミャンマー)政府は230 人以上の政治囚を恩赦によって釈放した。この動きを受け、アムネスティは、残されたすべての「良心の囚人」の釈放を要請する緊急署名を世界同時に開始した。折りしも、ビルマの元政治囚のスピーキング・ツアーを実施している中、日本支部もこの緊急アクションに参加し、署名を集めた。10 月17 日から11 月4 日の間で、世界77 の国と地域で集められた3 万750 人以上の署名は、11 月11 日、日本支部が代表して都内のミャンマー大使館を訪問して届けることとなった。残念ながら大使館側から応答はなく、後日、改めて送Ω付した。

50周年イベント

「One More Member ~それが世界を変えるチカラになる~」というメッセージで、創立50 周年の特設ウェブサイトを設けて、一連の50 周年イベント広報と表現の自由を求めるウェブアクション「Freedom2011」を行った。5 月7 日には、50 周年を祝うイベントのチャリティライブ&オークションパーティを開催し、記念講演として元良心の囚人徐勝(ソ・スン)さんの講演、ファドのライブ、竹下景子さんによるメッセージの読み上げ、チャリティ・オークションなどを行った。また、10 月12 日には、弦の音色がつなぐ、世界中の人びとの魂の自由と人間の尊厳をテーマに、バイオリニスト天満敦子さんの無伴奏コンサートを50 周年記念として行った。パーティ、コンサートともに、チケットを会員、労働組合、企業等、多くの方に購入いただくことで、寄付集めは成功裡に終わった。

50周年キャンペーン報告・成果

自由権規約委員会勧告の実施を求める活動(国内の活動)

国内人権機関

2011 年は、国内人権機関の設置に向けて重要な動きがあった。3 月に民主党内で人権侵害救済機関検討プロジェクト・チーム(PT)が立ち上がり、その報告を受けて8 月、法務省政務三役が「新たな人権救済機関の設置について(基本方針)」を公表した。しかし、その内容は、独立性や権限、機能など、あらゆる点で国際基準と合致していない。2012年には法案が国会に提出されると予想されている。

アムネスティ日本は、他団体と協力し、3 月に黒岩法務大臣政務官と面談し、国際基準に沿った国内人権機関の設置を要請した。5 月には民主党のPT の会合において、国内人権機関の独立性、人権侵害の定義と範囲、勧告や調査の権限の必要性などについて、PT の構成議員に訴えた。6 月、他団体と共同で要請書を法務大臣および民主党に提出した。またアムネスティ単独で12 月26 日に平岡法務大臣と面談し、国内人権機関の法案作成に向けての懸念点と提言を伝えて書簡を手渡した。

取り調べの可視化(全過程の録画)

2010 年に検察が大きな社会的批判を受けた「厚生労働省元局長事件」によって、取調べの可視化(全過程の録画)を求める声は一層強まっている。そうした中、関係省庁でさまざまな勉強会や検討会が実施され、江田五月法務大臣(当時) は、いくつかの事案で取調べの全過程の録音・録画の試行を指示した。また、6 月に、刑事司法に関する法制審議会特別部会が設置され、取調べの全過程の録画の制度化について議論されている。法制審議会の答申は2012 年末には公表されると考えられている。しかし、取調べの全過程の録画に対する捜査当局側の抵抗は強く残っている。

アムネスティ日本は、2010 年暮れに作成したアクション・キット『密室から取り調べの可視化へ』を引き続き活用し、法務大臣や法制審議会に向けて、全過程の録音・録画の法整備を早急に進めるよう、働きかけた。また、取調べの可視化を求める市民団体連絡会を他団体とともに立ち上げ、院内集会(3 月、5 月)、また12 月には市民集会「なぜ無実の人が『自白』をするのか」を開催し、230 名以上が参加した。また、法制審議会や民主党法務部会に対しても要請を行った。

その他

アムネスティ日本は、国内人権ネット等を通じて、名古屋刑務所において受刑者が工場へ入場する際、全裸検査が行われ精神的苦痛を受けていると情報を複数の受刑者等から入手し、このことが受刑者の尊厳を傷つけ、国際人権基準を満たしていないと判断した。

5 月末、アムネスティ日本は、名古屋刑務所長等に対し、文書にて直ちに全裸検査の中止を求めた。当初は文書での回答を拒否し、口頭で全裸検査を継続すると述べていたが、12 月に入り、先方より、文書で全裸検査を中止したとの回答があった。

個人のための活動(危機にある個人、UA)

緊急行動(UA)は、新たなUA246 ケースを含め、更新情報、ストップ情報あわせて約700 件が国際事務局から配信された。和文に翻訳したUA は、更新、ストップ情報を含めて205 件(12 月12 日時点)で、UA ニュース(和文)は8 回発行し、釈放情報などの「グッド・ニュース」を紹介するよう努めた。2011 年11 月30 日時点で、UA 参加者は、英文15、和文郵送61、電子メール623 人となっている。

良心の囚人ネットは、各グループに呼びかけ、30 のグループが「危機にある個人」のケース活動とAI@50 のアクションに参加し、担当しているケースのうち、3 つのケースで良心の囚人が釈放された(アゼルバイジャン、ビルマ、中国)。

死刑廃止

アムネスティ50 周年記念の死刑廃止国際アクションとして、3 月にアムネスティの死刑統計の発表記者会見を実施。6 月から、ベラルーシおよびサウジアラビアに関する死刑廃止国際アクションを開始した。9 月には、米国の死刑囚トロイ・デイビスの死刑執行を阻止する国際アクションを展開し、緊急ウェブアクションには、日本でも1959 人が参加した。

死刑に反対するアジアネットワーク(ADPAN)の活動としては、3 月10 日に、袴田巌死刑囚の釈放と再審の開始を求める声明を発表。12 月6 日には、「不公正な裁判」についてのADPAN 報告書の発表記者会見を開いた。

日本の死刑廃止に向けた活動としては、4 月、法務省の「死刑の在り方勉強会」ヒアリングに出席して、アムネスティの見解を表明した。7 月、死刑廃止国際条約発効20 周年にあたりフォーラム90 と共に江田法相に面会し、死刑執行停止や情報公開の推進、死刑廃止に向けた議論などを要請。10 月には、フォーラム90 や監獄人権センターと共に、平岡法相に対して、死刑の執行停止や死刑廃止に向けた議論の前進を請した。さらに、12 月には再度、アムネスティ単独で岡法相に面会し、執行をしないよう直接要請をした。

「死刑に異議あり!」キャンペーンでは、2 月、東京都のイベント「市民社会をつくるボランタリーフォーラムTOKYO2011」の一環として、『厳罰化社会からの転換』と題するセミナーを開催。また、8 月には、キャンペーン3 周年記念集会を開催した。

難民

日本の難民認定制度、並びに入国管理局収容施設の状況改善を求め、ロビーイング、啓蒙活動を行った。2011 年8 月号のニュースレターでは、難民を特集し、要請はがきを使って会員から法務大臣に制度改善を求める要請をした。

また、今年は日本の難民条約加入30 周年の年であり、他のNGO と共に政府に対して、条約加入国として責務を果たすよう共同で要請し、国会での「難民の保護と難民問題の解決策への継続的な取り組みに関する決議」の採択につながった。また、難民認定申請者や、未成年等が収容されている現状を変えるため、法務省、日弁連、他団体共に収容に代わる代替措置の検討を始めた。

政府・議会への働きかけ

2011 年2 月8 日、アムネスティ議員連盟主催で「激動するエジプトでの人権活動家の拘束に関する緊急会合」を開催した。「アラブの春」で揺れ動くエジプト情勢の把握と、人権活動家の釈放を求める緊急のアクションについての情報を共有した。

3 月10 日には、アフリカ研究の専門家である勝俣 誠氏(明治学院大学国際学部教授)を招いて、第33 回 国際人権セミナー「変革を求める北アフリカ~人びとは、銃弾でなく改革を望んでいる」を開催し、北アフリカ情勢の背後にある歴史や政治的背景についての分析を共有した。その他、アムネスティ議員連盟にアムネスティ年次報告書を購入いただく等、世界の人権状況に関する情報提供を適宜行った。

「慰安婦」問題については、2011 年は、ソウルの日本大使館前での水曜デモが1000 回目になる節目の年にあたり、高齢の被害者たちが求める正義、とくに公式謝罪と賠償を実現するために、他団体とも協力しながら、さまざまなロビー活動を行った。

他団体への働きかけ

労働組合との協働

連合国際局との協力で、2011 年度労働組合アクションのリーフレット「表現の自由、集会・結社の自由」を作成し、会員、連合所属の労働組合、自治労等で配布した。今回は結社の自由、団結権、団体交渉権に焦点を当てたアクションで、労使関係における暴力や警察の不当介入は、民主的で自律的な経済活動の発展をはばむことになり、広く表現の自由の侵害につながるということをアピールした。

6/12 の児童労働反対世界デーイベントである「ファッションで世界を変える~危険・有害労働から子どもを守るために~」を、NGO 労組国際協働フォーラム/ 児童労働ネットワークの構成団体・企画委員として行った。大阪事務所では、「STOP! 児童労働アクション2011」として、手紙書きイベントを行った。

企業の社会的責任(CSR)

鉱物資源系企業の人権研修を継続的に行ってきた。とくに11、12 月は、世界で起こったケーススタディを元に、従来の人権研修とは異なった研修を実施する企業が増え、その講師をアムネスティ日本が担当した。また国連グローバルコンパクトジャパンネットワーク、飲料企業、電機企業等と企業が取り組む人権課題についての意見交換を行った。

キャンペーン・イベント

フィルムフェスティバル

2011 年1 月29、30 日に都内ヤクルトホールにて第3 回アムネスティ・フィルム・フェスティバル(隔年)を開催した。『ビルマVJ 消された革命』『要塞』『TOKYO アイヌ』など異なるテーマの人権問題についての映画を上映し、両日あわせて、のべ800 人が来場した。朝日新聞と東京新聞の社会面で取り上げられた他、映画雑誌などでも幅広く取り上げられた。3 回目ということで、リピーターも徐々に増えており、参加者からは「ぜひ、こういった映画祭をこれからも続けてほしい」というご意見を多数いただいた。

スピーキング・ツアー

企業と人権、ビルマの政治囚の2 つのテーマで、ナイジェリアのナイジャーデルタからディヴィッド・ヴァレバさん、ビルマから元政治囚のトゥインリンアウンさんを招聘した。10 月下旬から11 月上旬に、全国でグループや連絡会の協力により、金沢、大阪、田辺、徳島、名古屋、神奈川、新潟、盛岡、東京において、計10 講演、2 セミナーを実施した。

ナイジャーデルタの講演については、時事通信が事前に告知したほか、朝日新聞夕刊の『ぴーぷる』のほか、金沢や田辺でも新聞で報道された。さらにCS のTBS『ニュースバード ニュースの視点』で特集番組として放映された。ビルマのトゥインリンアウンさんも、神奈川、中日新聞などで大きく紹介された。しかし、集客については、全体目標の900 人をかなり下回る約500 人の参加にとどまり、次回以降の大きな課題として残された。

ライティング・マラソン

2011 年も12 月10 日世界人権デーを含む12 月3 日(土)から17 日(土)の15 日間、世界中のアムネスティ会員が「良心の囚人」を救うために手紙を書く、ライティングマラソンが開催された。世界中で129 万4594 通、日本支部でも全国各地で27 グループが参加し、約2600 通の手紙を書いた。


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